歯根を生かす矯正的歯根挺出法 ①[Orthodontic Root Extrusion ①]
症例基本データ
患者:
60才 男性
初診:
1985/2/8
主訴:
海外出張を控えているので、悪い所は治療したい。
右下5,6番冠撤去時の口腔内所見 右下5番は骨縁下に及ぶ深い歯質の崩壊。
(1987/3/3)
歯内療法終了後、矯正的挺出に入る
(1987/4/10)
2ヵ月と1週間で矯正的挺出終了
(1987/6/17)
矯正的挺出開始時のX線所見
(1987/4/10)
同矯正的挺出終了時のX線所見
(1987/6/17)
右下5番部の付着歯肉を剥離し、臨床的歯頸線を一致させるためにosseous surgeryを行う
(1987/7/21)
矯正的挺出開始後4ヵ月2週間の所見。メタルコアの下に健全歯質が確保された。
(1987/8/25)
術後10年3ヵ月の口腔内所見
(1997/7/29)
術後10年3ヵ月のX線所見。
(1997/7/29)
治療方針
患者さんは60歳の男性。右下の奥歯2本に古い金属冠が装着されており、根元から深い虫歯が進行していました。従来の診断と治療方針では歯茎より深い部分まで虫歯が進行しているこのような症例では、抜歯が適応とされています。しかし、この「矯正的歯根挺出法」を用いることで抜歯を避けることができ、2本の奥歯は再び咀嚼に寄与しています。1本でも多くの歯を守る歯科医療の基本となる臨床例です。
症例のポイント
矯正的歯根挺出後、10年3ヵ月を経過して、右下5番(小臼歯)根尖部の歯槽骨は、新生骨で満たされ安定しています。歯根の吸収像も認められず、矯正的歯根挺出法の長期にわたる有用性が臨床的に確認されました。最終補綴物のマージンをメタルコアの上ではなく、健全歯質の上に設定できるようにするのがこの挺出法の意図するところです。