外傷による歯の破折 ③(②の続き)[Traumatic Tooth Fracture ③])
症例基本データ
患者:
24才 女性
初診:
2014年4月12日
主訴:
貧血による転倒で前歯2本を破折。
中学時の左上1番歯を接着後より2年11ヶ月後の所見。異常所見なし。
(2008/9/20)
左は接着後5年10ヶ月後の所見(2011/8/23)。根尖部に透過像を認めた。右は根管治療開始時。
(2011/9/13)
左は接着後7年11ヶ月後の所見(2013/9/20)補綴せず接着のみ。右は左上1番歯の根管充填より2年後のX線所見。根尖部に新生骨。
(2013/9/20)
ところが…貧血で転倒。健全な右上1番歯の歯冠破裂。富山大学医学部口腔外科より依頼。『どうしても名古屋の斉藤先生の治療を受けたい』
(2014/4/12)
富山大学口腔外科より「インプラント治療を勧めるも、本人の強い希望によりご紹介いたします」といった依頼状
(2014/4/10)
右上1番歯は歯髄より出血。歯髄保存処置。左前歯は中学時の接着医療より8年6ヶ月経過するも再接着処理を行った。
(2014/4/12)
上顎左右1番歯ともに接着治療で保存を試みた。右上1番歯は歯髄保存治療。左上1番歯は2度目の接着治療。
(2014/4/12)
再接着治療後2年1ヶ月後のX線所見。右上1番歯はVital(歯髄保存治療)。
(2016/5/7)
中学時の初診より10年7ヶ月後。歯を削ることなく天然歯を保存し、審美的にも機能的にも満足が得られている。
(2016/5/7)
治療方針
中学1年生の時の前歯(左上1番歯)の破折に続き、医学部進学後右上1番歯も転倒により破折した。2度目の破折であり、患者さんの強い希望により富山より来院された。今回破折した2歯は、いずれも前回同様に歯髄保存治療と接着歯科医療により天然歯保存に努め、歯を削る補綴治療を避けること。
症例のポイント
中学生の時に来院された患者さんは、その後富山大学医学部へ進学し、24歳になられた。この間、両側の上顎前歯の破折と露髄(歯の神経が外に見えて出血すること)を経験したが、天然歯質および歯髄(歯の神経)の保存に努めた。中学生時代の初診より11年間、歯質の削除を避け、補綴治療(差し歯・インプラントなど)を回避できたことが最大のメリット。天然歯を可能な限り守り、保存することが歯科医療の使命と捉えたい。