外傷による歯の破折 ②[Traumatic Tooth Fracture ②]
症例基本データ
患者:
13才 女性
初診:
2005年10月14日
主訴:
テニスのラケットが当たり前歯を破折。
2005年10月8日、テニスのラケットが当たって前歯が折れた。他院を受診するも1週間後に紹介にて来院。
(2005/10/14)
来院時の所見を示す。左上の前歯が根元から破折し、出血と痛みがある。
(2005/10/14)
持参した破折歯冠
(2005/10/14)
来院当日、局部麻酔下で歯髄保存治療を行う。舌側の破折あり。
(2005/10/14)
左は歯髄保存治療後のX線所見(2005/10/14)。右は1週間後の口腔内所見。痛みの訴えは全く無かった。
(2005/10/22)
1週間後の来院時に天然歯の歯冠部接着治療を行う。小骨片が紛失していた。
(2005/10/22)
破折歯冠を接着。術後の口腔内所見を示す。患者さんが初めてニコッとした。
(2005/10/29)
術後(接着後)のX線所見。歯髄はVital(生存)。
(2005/10/29)
術後2年5か月後のX線所見。Dentin Bridge(新生歯質)が形成され、根尖部に異常所見認めず。
(2008/3/22)
治療方針
13歳の中学1年生の女の子が、部活中に友人のテニスラケットが前歯に当たり歯冠部を破折した。他院にて治療を受けるも、翌日からズキズキし始めた。受傷後1週間経って紹介にて来院するも、泣いていて涙が止まらない。直ちに局部麻酔下で歯髄保存治療を行う。破折した歯冠は、接着歯科医療を応用して審美性と機能性の回復に努める。
症例のポイント
このように大きく破折し、歯冠から出血を伴う症例であっても、適切な治療を行えば歯髄(神経)を取ることなく保存できる。また破折した歯冠があれば、審美性も機能性もほぼ元の状態への再現が可能である。抜髄(神経を取って)差し歯にしたり、すぐ抜歯してインプラント治療に取り組むことは「1本の歯を守る」治療方針からすれば厳に慎むべきであろう。歯科医療の在り方を示す臨床例として提示した。術直後、接着され元の形に戻った自分の歯を見て、この女の子は初めて「ニコッ」とした。本当に良かった。