水平破折歯根の接着・再植法 ②[Horizontal Tooth Fracture ②]
症例基本データ
患者:
63才 男性
初診:
2000/9/27
主訴:
「勤務中に前歯をぶつけた。触ると痛い。」と来院した。この時点のエックス線診査で根の破折所見は認められず、接着固定法で、患歯の安静をはかり、経過観察とした。
術前の口腔内所見
(2000/11/10)
左は初診時2000/9/27のX線所見。右は同11/10再来院時の所見。破折線が認められる。
(2000/11/10)
破折歯根はできるだけ歯根膜を損傷させないように歯槽内より取り出す。
(2000/12/8)
抜歯された破折歯根を示す。
(2000/12/8)
口腔外で接着装作を終えた破折歯根を示す。あらかじめコアー用の根管形成をし終えて水硬性セメントで仮封。
(2000/12/8)
接着・再生した前歯を抜歯窩に再植するところ
(2000/12/8)
接着・再殖後6ヵ月と10日の所見。術前の患者さん固有の天然歯の持つ美しさが保持されている。
(2001/6/18)
左)術後7年7ヵ月の口腔内所見。審美的にも機能的(咀嚼)にも術前と遜色のない術後経過が得られている。右)術後20年経過後の口腔内所見。歯冠部の変色もなく歯根破折歯が機能している。
(2000/7/2・2020/12/9)
左)術後7年7ヵ月のX線所見を示す。歯根の周囲骨は安定し、骨殖は良好に維持されている。右)術後20年。歯根周囲に炎症性歯根吸収が発現するも、臨床的症状はない。
(2000/7/2・2020/12/9)
治療方針
2000年11月、初診から約1ヵ月半後、「少し慣れて、不用意にも前歯でトウモロコシを噛んだ時、グラッときた。」とのことで急遽来院された。この時のX線診査で、歯根の水平破折が確認され、患歯固定のまま根管処置を先行させた。患歯は接着・保存の方針とし、再植法を応用した。
症例のポイント
・この種の症例に対するアプローチとしては、従来、破折した歯根を抜歯して3本のブリッジを装着するか、またはインプラント治療を勧められるところですが、破折した天然歯根を応用することにより、術前に遜色のない術後所見が得られている。 ・この症例の最も重要なポイントは、患歯はもとより、両隣在歯 《天然歯》 を前歯補綴処置のために削去するという従来の手法を避けることができた点にある。天然歯保護の観点から、極めて優れた手法と思われる。 ・術後20年を経過し、患者さんは83歳になられたが、将来、炎症性歯根吸収により歯根の抜歯が必要となった場合でも、歯根を切断し、歯冠部を 《天然歯ポンティック》 として接着・応用することで、ブリッジを回避できる。